部長の必要条件(学術)
医局の系列病院だけでなく、大学病院でない中規模の病院は数知れず。
そのどの科にも部長が存在するわけである。
今回は大学病院系列の市中病院で部長をする学術における必要条件について考えを述べる。
大学病院とは、研究を行う事が必須である。
これは基礎研究の事だけを指しているのではなく、臨床研究も含む。
市中病院でも、それなりの規模であると研究室が設けられていて、簡単な基礎研究を行う事ができるようになっている所がある。
が、市中病院の研究の主体は臨床研究となるだろう。
臨床研究は大きく分けて2種類ある。
症例報告と統計学的評価である。
症例報告
症例報告は簡単であるようで奥が深い。
内科的なものに関しては、症例詳細とデータが揃えば事が足りる事が多いし、それ以上のものを望まれない。
但し、外科系はそうは行かない。腫瘍などの症例報告であれば、病理組織の写真や病理学の知識が必要とされる。
先日の学会でも、指導者のセンスが低すぎる発表を目にした。その内容は要約すると以下の通り。
舌から腺癌が出ました。その後リンパ節転移をしました。手術をしました。予後が悪い可能性があります。
で、この発表。病理の写真が一枚もない。
「本当に腺癌なの?」
大前提が示されていない。
発表者は若い先生で、おそらくは上司から発表しろと言われて発表したので、彼には罪はないし、教育されていないので責めることはできない。
が、私は質問した。
私「免疫染色などされていますよね?内容はどうでしたか?」
発表者「えーと、分かりません。」
私「そうですか。分かりました。」
内心腸が煮え繰り返る気持ちであったが、収めた。
腫瘍を扱っていて、病理を自分の目でも見ず、結果も確かめず、発表している。もしくはさせている。
現在、悲しいことながら、耳鼻科領域のレベルはこの程度なのである。
私は外科に時代もあり、某癌専門施設で病理に従事した経験もある。
癌学会などでこんな症例報告をしようものなら、フルボッコになる。
学会会場でフルボッコにされ、発表者(男性)が泣きそうになりながら、上司がひたすら謝る光景を見た事がある。
先日も記載したが、このレベルで学会で発表しようなどと思わない事だ。
話が少し脱線したが、こういう学会発表での最低限のレベルを持ち合わせている事が部長の必要条件の一つである。
統計学的評価
統計学というと難しい印象だが、基礎を知るだけなら、そうでもない。
私が初めて統計学的評価の発表をしたときにはSPSSという統計ソフトを使用した。
これは個人で購入するには値段が高すぎるものだが、当時私が勤める病院では職員は無料で使用ができた。
ただ、統計がなんたるかを分かっていないと恥をかく。
少なすぎるn(症例数)を統計ソフトにかけて、「有意差が出たので、この事象は意味があります!」などと言うと、これまたフルボッコである。
統計についてはまた後述するが、統計学的評価について基礎事項を理解している事も部長の必要条件だろう。
論文の評価
部下に論文を書かせる為には、自らが論文を書いていなければならない。
私が最近まで働いていた職場の部長は、書けばお金が貰えるような文章しか書いた事がなく、peer reviewの論文など書いた事がない部長であった。
部下の論文の指導など、ほとんどした事がなく。挙句の果てには
「書いたら、名前は載せといてね」である。
まぁ、こういう人間でも市中病院の部長は務まるのかもしれないが、大学系列の病院の部長としては至極ふさわしくない。
医局員を育てる為には、ちゃんとした部長を育てる医局の努力が必要であるし、その人事を握る人間のセンスが問われる。